蒼穹の黙示録

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悪戯の犯人は?

 自分の気のせいかもしれない。いや、思い違いであってほしい。
 破壊神、アルトリア・セイクリッドはここ最近悩み事があった。
 周りからすればちっぽけな事だろうが本人にとっては生死に関わる問題だ。
「創造神、近頃私の身に不合理な事が起きているのだが」

 創造神、と呼ばれた神、コルネリア・セイクリッドはアルトリアの言葉を
 「そう」とだけ生返事をし、本の文章から目を離さない。
 彼女のぶっきらぼうな態度はいつものことだ。寧ろそうじゃなかったら世も末だ。
 構わずアルトリアは言葉を続ける。
「朝起きたら私の顔に落書きが描いてあったり、物入れを漁った跡があったり」
「へえ」
「挙句の果てには難読な文字がただひたすらに綴られている手紙が置かれているのだが!?」
「これは絶対にあやつの仕業ではないか!?」

 アルトリアの言う『あやつ』とは、統宰神スフラリア・セイクリッドのことだろう。
 彼女は過去にも同じようなことをした歴がある。
 その後にだ、アルトリアの反応を面白がってスフラリアは虐待したのだ。
 この思い出はアルトリアにとって最悪の思い出だ。
 幸いコルネリアのおかげで『半殺し』で済んだ。だが彼女の制止がなかったら、
 アルトリアはこの世にいない者となっていただろう。
 その出来事のおかげでアルトリアはすっかりスフラリアのことが苦手になった。
 スフラリアは前のようにまるで何も無かったかのように接しているが。

 アルトリアには今相談できる相手、スフラリアを何とかできる相手がコルネリアしかいないのだ。
 だから藁に縋る思いで今こうしてコルネリアにへばりついているわけである。
「……あのさ、読書の邪魔だから顔近づけないでくれない?不快」
「いや、不快というか感情そのものがないだろう創造神」
「君がいると不思議と湧き出てくるんだよ破壊神」

 そんなお互い譲らない攻防戦はただただ時間が過ぎていくだけだった。
 時間の無駄だろうと判断したであろうコルネリアは言う。
「わかった。やめるよう言っておくよ」
「話が分かるではないか創造神よ。そうしてくれると有り難い」
 アルトリアが胸を撫で下ろしていると、コルネリアは「これでいいでしょ」とさっさと読書に戻ってしまう。
 アルトリアは問題も解決したからか、あっさりと帰って行ってしまう。
 これは一件落着、かと思いきや次の日だ。

 コルネリアの部屋に、またアルトリアは乱暴に入ってきた。コルネリアは動じないで相変わらず本を読んでいる。
 アルトリアはコルネリアの方にずかずかと歩み寄り、机を乱暴に叩いた。
「創造神!これは一体どういうことだ!」
 アルトリアは声を荒くし、叫ぶ。それでもコルネリアは眉一つ動かさずに読書を続けている。
「何。どうしたの」
 相変わらずの態度でコルネリアは聞く。
「『どうしたの』ではない!やめるどころか酷くなっているではないか!」
 という主張を息継ぎも入れずに荒々しく言う。
 そんなアルトリアをコルネリアはじっと見つめる。

「……そんなにスフラリアのことが怖いのか君は」
 コルネリアはアルトリアの様子を見ておきながらそんなことを淡々と言う。
 その言葉を聞いてアルトリアは顔を引き攣らせた。
「……貴様、今まで私の何を見てきた」
「さあね。君のことなんて一々覚えてられないよ」
 そんなことを言い、コルネリアは再び読書に戻ろうした、が。
「貴様、人が頼んでいるのにその態度は一体何なのだ!」
 アルトリアがコルネリアの肩を掴み、言う。
 コルネリアは読書の邪魔だと言わんばかりの目線を送る。全くもってにべない。

「それが人に頼み事する態度だとは思えないけど。もっと恭謙に頼むべきじゃないかな」
 アルトリアには無茶ぶりであろうことをコルネリアは言う。
 その言葉にアルトリアは腑に落ちないさまで改めて、こう言う。
 「ど、どうか……私に慈悲を……」
 確かに恭謙に頼めとは言ったが、そんなにかしこまらなくていいんじゃないかとコルネリアは思った。
 というか、何か気持ち悪い。
 普段、傲慢な態度のアルトリアが謙虚になるとこんなに気持ち悪いとは思わなかった。
 滅多に見れない代物だな、とコルネリアは思った。まさかあのアルトリアがこんなにも。

 ひとつ、満足したコルネリアはアルトリアに真相を披瀝した。
「あれ、やったの僕だよ」
「……は?」
 コルネリアの言葉に、アルトリアは脱力感に陥るような声をあげた。
 まさかアルトリアはそんな茶目なことをコルネリアがするとは思わなかったのだろう。
 だが吃驚するより先に色をなすのが先だったようだ。
「……創造神、貴様。私を誑かしたな……?」
「はは、よほど信頼されていたんだね。そんなにまなじり決してさ」
「貴様、私を貶めるなど……っ!」
「万死に値する?君の言動なんてワンパターンだしね。馬鹿の物一つ覚えって奴?」
 コルネリアはアルトリアの言葉を遮って言う。
 普段は表情を変えないはずであろう、コルネリアの表情は完全に人を嘲笑う表情だ。
「貴様……絶対に逃しはせん!!」

 そこからだろうか。滅多にない組み合わせで長追が始まったのは。
 話題に上がっていた当のスフラリアはきょとんとした顔で2人を遠くから眺めていた。

悪戯の犯人は? コルネリア・セイクリッド&アルトリア・セイクリッド

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