蒼穹の黙示録

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見えない星に想いを

 ――3人の神がいた。
 1人は『世界を創り』、1人は『世界を管理』し、1人が『世界を壊した』。
 3人はこれが普通だった。今の自分は完璧だと互いに思った。
 だが、3人はある青年により何かが欠けていると気付かされた。

 これは、3人の神の心の物語のとある1ページ。

「いつしか色んな景色を見てみたい」
 そんなことを願っていた、あの時の「もう一人の自分」。そんな願いは叶うはずもなく「自分」が壊してしまった。
 生暖かい風に戦がれ、全てを壊す破壊神、アルトリア・セイクリッドは一本の大きな木の下に佇んでいた。

 その木の枝は、薄い桃色に染まっていた。これが「桜」。今は春という時期なのだ。
 アルトリアはその桜の木を見上げ、今までを思い返す。「もう一人の自分」のことを。
 「もう一人の自分」はアルトリアにとっては忌み嫌う対象でしかなかった。
 自分の思っていることも言えないで、勝手に傷ついて、勝手に心を閉ざして。
 そういう奴ほど自分で壊れて壊し甲斐がない。
 だから破壊することが使命だったアルトリアは「もう一人の自分」が嫌いだった。

 だが、「もう一人の自分」も「自分」と同じく自分の使命を果たそうとしたのだ。自分の正しいと思ったことをしたのだ。
 それに、周りに批判されながらも、正しいと思ってたことをしていたのだ。「自分」にはできなかったことを。
 アルトリアは与えられた使命しか果たさなかった。それしか許されなかった。
 自分のしたいことなど結局破壊しかなかったのだが、「もう一人の自分」はそれと真逆のことをした。

「自分」は命さえも壊す、「もう一人の自分」は命を救うことだった。

 それを「もう一人の自分」の心奥底から見ていたアルトリアは疑問に思った。
 何故自分の利益のないことをする?何故使命でないことを果たそうとする?
 ましてや自分の金さえも出してまで。何故だ?

 それをアルトリアはずっと気になっていた。そして「もう一人の自分」に接触した際、聞いた。
「お前は何故あのようなことをした」
 それを聞いて「もう一人の自分」は答えた。「したいと思ったからだ」と。

 アルトリアはそれを聞いて嘲笑った。したいことをして勝手に壊れていくのかと。
 だから、壊れる前に「もう一人の自分」を壊した。既に壊れてしまったものは壊し甲斐がないからだ。
 だが内心羨ましくもあった。「もう一人の自分」は使命しか許されない環境の中でしたいことを見つけたのだから。

「……なんであろうな。共に過ごしていくうちに思い入れでも持ってしまったか」
 アルトリアは桜の木に触れる。
 これが桜。「自分」も「もう一人の自分」も見たことないものだ。
 儚げで、すぐに壊れてしまいそうで、アルトリアにはたいそう気に召さないものだろう。
 だがなぜだろう。こんなにも綺麗だと思うのは。この感動を誰かと分かち合いたいと思うのは。

 アルトリアは、もうどこにも、自分にも知らない世界に行ってしまった「もう一人の自分」に言う。
「貴様の、見たかったもの、桜というものは綺麗だな。……セシルよ」
 セシル。それが「もう一人の自分」の名前。
「貴様と私は一心同体なものだ。だから……」

 「もう一人の自分」のしたかったこと、「色んな景色を見る」ということをしよう。
 それが、破壊神アルトリアの唯一与えられた使命以外で出来た「やりたいこと」だった。
 アルトリアは桜を目に焼き付け、次の場所へと踵を返した。やりたいことをするために。

 もうセシルはいない。でも確かに、自分の中にある。セシルの抱いていた見えない星のように。
 セシルの想いも全部、自分の中に存在している。そう、アルトリアは誰にも見えない想いを持っている。

 そんな、破壊神アルトリア・セイクリッドという物語の、ほんの1ページ。

見えない星に想いを アルトリア・セイクリッド

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