その青は海のように深く
当時は叶うと信じて約束事なんてものをしたものだ。今はもう、それは叶わないとわかってしまったが。
当の本人はその約束を覚えているだろうか。いつしか交わしたあの約束を。
「桜。いつか見に行こう」
「うん。桜。見に行こう。約束だからね」
幼い頃の自分、クラウス・ナイツェルと友人の、セシル・ギルバートはそんな約束事をしていた。
子供のよくある確信のない自信からか、あの時は絶対あるなどと保証したものだが今はこんな廃れた世界だ。
桜なんて綺麗な物は存在しない。そう、思ってしまった。
綺麗、と言えばセシルの青い目は珍しいなとふと思い出した。
出会った頃はセシルしか青い目を見たことがなかった。今は違うが。だから当初、桜と同じぐらい、綺麗に思えた。
セシルが差し出してきた本の中に海という今では違う、
綺麗な宝石のような青さを持った光景があったがそれと同じだと思った。
だから、桜や海なんて見れなくても目の前の友人の瞳の色を見ているだけで優越感を得たような気がした。
本人には当然、わからないだろうが。クラウスはセシルの瞳の色で救われた気がした。
この廃れた世界にも桜や海と同じぐらい綺麗な物があると。友人は証明してくれたのだから。
クラウスはもうあの頃のように、本当の友達のように親しげに接してはくれない友人に言う。
「……なあ、セシル」
「はい、何でしょう?」
クラウスの言葉にセシルは隔たりな言葉遣いでそう答える。
相変わらずだ。そう思い苦笑の表情を作り言葉を続ける。
「お前の目、海みたいだな」
それを聞いたセシルは一驚を喫したような表情をさせた。自分でも中々唐突に滑稽な事を言っていると思う。
セシルは直ぐに元の穏やかな笑みの表情に戻りただ一言だけ「何ですか、それ」とだけ言った。
接し方は変わったが、細めた深い海のような青の瞳は変わらず、澄んでいる。
そんな変わらない瞳と同じく、昔のように接してくれたらいいのに。
もう叶わない、桜と同じ事を思いながらクラウスは「ただの戯言だ」という一言だけ、そう言った。
その青は海のように深く セシル・ギルバート&クラウス・ナイツェル