蒼穹の黙示録

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見えない星に願いを

 静かで暗い夜。セシルは自室からこっそり抜け出し、外にでた。
 皆はもう寝ている頃だろう。外は星もない、ただの暗闇だ。
 だがセシルは慣れていた。暗闇なんて。自身の直感で暗闇の中歩くセシルはふと思い出しその場で立ち止まった。
 夜、といえば幼い頃本で見たことある星という物があちこちに輝いていて、
 宝石みたいな景色だったものだな、とセシルはそう思った。
 セシルにはその景色が、今自分が持っている権力とは違う、手に入れることのできない価値のあるものに思えた。

 セシルは何を取っても完璧だった。完璧になるために努力してきた。数々の人々の想いを浴びながら。
 だから、欲しいものなどなかった。大体は自分が持っているからだ。
 だがこれは違う。どんなに自分が努力しても手に入らないものだ。だから一層輝いて見えた。

 星空のほか桜や、海なんかも見たことがある。本で、だが。
 こういう話も見たことがある。「流れ星に願い事をするとその願い事を叶う」と。
 セシルはさすがにそれはあり得ないと当時は思ったが、今こんな狂った世の中じゃそれもありかもしれない。
「願い事か……。そういうのは無かったなあ昔から」
 そう言いセシルは暗闇の中くすくすと笑う。今空には星はないが、自分の中にはある

 昔のからの夢「色んな景色を見に行く」という夢。それが自分の中の星だった。
 セシルは、誰にも、自分にも見えない星に「……叶うといいな」と、願い事をした。
 いつしか、誰も苦しまない、平和な世界で、本ではなく自分の目で、色んな景色を。
「……そんなの叶うはずないのに」そうセシルは呟いた。
 自分で自分を馬鹿らしく思いながらセシルは踵を返し、自室に戻る。でも期待は多少あった。
「多少の我儘くらいは許されるでしょう」そうセシルは言い、見えない星を抱き、また暗闇の中歩き始めた。

 それを、誰かが聞いていたことはセシルは知らない。それを叶えてくれる誰かに。

見えない星に願いを セシル・ギルバート

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