言ってくれないとわからない
いつもと変わらず平和……ではなく相変わらずどんどん破滅の世界へと向かっているある日。金色の長い髪に翡翠色の瞳をした女、5名家のうちの1人であり、
ルドラ軍でも少将という階級を得ている女、レイラ・アレニウスは目の前の男、
優雅に読書をしているセシル・ギルバートをじっと凝視していた。
セシル・ギルバートとはここ、ヴォルトゥ帝国の頂点に君臨するギルバート家の次期当主であり、
他の名家とは圧倒的な霊力、身体能力、学力を持っていた。レイラはそのセシルの実力に惚れ込んでいた。
こうしてみると改めて作り物みたいに整った顔だと思った。珍しい銀色の髪。そして宝石のような青い瞳。
セシルは誰もが見惚れてしまいそうなほどの容姿の持ち主だった。
実際レイラも凝視しているというよりは見惚れているに近いかもしれない。
そんなセシルとは8年前知り合った時からずっと共にしてきたが、そういえば自分はセシルの
何を知っているんだろうと前々から思っていた。
辛うじて知っているのは、今こうして読書をしている辺りからして、読書が好きなのと、
霊力は他の名家と比べて桁外れなくらいだ。それ以外は何も知らない。読書以外の趣味も。好きな食べ物とかも。
いや、もしかしたら読書も趣味じゃないかもしれない。それくらい、レイラは彼のことを何も知らなかった。
8年間も長い付き合いをしててそれはいかがなものかと思ったレイラは、
彼をもっとよく知るために彼を観察をしていた。
だが彼も仮にも軍人だ。そう安々と人に背後を取られるような人物ではなかった。
セシルをこっそり影から追いかけようと思うといつの間にか背後を取られ、
「どうしたのですか?」とにこやかな笑みで言う。そんなやり取りを繰り返していた。
とうとうレイラの行動に疑問を持ったのかセシルは読んでいた本を閉じ、突として、「最近どうしたのですか?」と言う。
「どうしたって……なにがよ」
「いや、レイラさん用事あるのかな〜って。ほら、影でじっと見ているでしょう?」
バレていたのはわかっていた。だがそう口に出されると恥ずかしい。
「いや……。そうなのだけれど……」
恥ずかしさで言葉が出てこない。なんと言えばいいのか。
セシルのこと何も知らないからと言うのも薄情な気がするし、セシルのことをもっと知りたいと言うのも恥ずかしい。
レイラが返す言葉も見つからないで俯いていると、セシルが俯いているレイラに視線に合わせて屈んできた。
突然の至近距離で視線が交わる状況にレイラは鼓動を早くさせる。こういうことを素でするからずるい。
「言ってくれないと、わかりませんよ?」
微笑みながらセシルはそう言い、レイラの頬に手を添える。それがレイラの中の色々何かを爆破させた。
「ああもう! 貴方はどうしてそう平然としているの! こっちは貴方のこと色々聞きたくても聞けなくてもどかしいっていうのに!」
それを聞いたセシルは唖然としていた。
レイラはそれの意味がわからなかったが、先程の自分の言動が原因だと知ると、
顔を真っ赤にさせ、「いや、これはその」と、もどろっしい態度を見せた。
それを見たセシルは思わず「ははっ」と声を出して笑った。
「な、なに笑っているのよ!」
「いや、そういえば自分の話はあまりしていなかったなあと思いまして」
「レイラさんは私のことを知りたいと思ってくれていたのですね」
そういう言葉をセシルはサラリと言う。ああもうこの人は本当に。レイラは更に胸の鼓動を早くさせながらそう思う。
最初はセシルのことは実力のある者としか見ていなかった。だがどんな行動をしても様になる彼を見ていくうちに、
いつの間にか彼を異性として、1人の男として見てしまっていた自分がいた。
だから、彼のちょっとした言動や仕草でも鼓動が早くなってしまうのだ。レイラはまだそれを恋と自覚していないが。
セシルは微笑みながら、レイラの手を取り、
「いいですよ。レイラさんの聞きたい事、何でも話しますよ」
セシルはそう言い、さあ何でもどうぞと言わんばかりの態度をとる。
レイラはもう、頭が真っ白な状態だった。今まで異性とこういう接触はなかったのだからしょうがないのかもしれない。
ようやく少し冷静になったレイラは、こうなったらさっきの仕返しとして恥ずかしい事までとことん聞いてやろう。
そう思い、セシルは知らないであろう怒涛の質問攻めが始まった。
言ってくれないとわからない セシル・ギルバート&レイラ・アレニウス