蒼穹の黙示録

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見えない星の誕生を

 ――3人の神がいた。
 1人は『世界を創り』、1人は『世界を管理』し、1人が『世界を壊した』。
 3人はこれが普通だった。今の自分は完璧だと互いに思った。
 だが、3人はある青年により何かが欠けていると気付かされた。

 これは、3人の神の心にある本の物語のとある1ページ。

 創造神、コルネリア・セイクリッドはある本の、ある項目に目を落としていた。
 地球という惑星の日本という国の、四季というもの。
 これまで色んな惑星の色んな景色を見た彼女にとって本来地球というものの景色は取るに足らないもののはずだ。
 正直地球の景色なぞよりより桁違いの美しい景色なんか沢山あった。沢山見てきた。だが彼女は何も感じなかった。
 何故彼女が今こうしてそんなちっぽけな惑星の本を読んでいるのか。

 彼女の見てきた数々のちっぽけな命の中にとある青年がいた。
 その青年は実力は確かだったがコルネリアにしては愚かだと思った。哀れだと思った。
 青年にも使命があった。コルネリア達と同じく、使命を持っていた。運命に逆らえぬ使命を。

 だが青年はその運命に抗った。使命とは違う、自分の正しいことをした。
 そして、自分したことに裏切られ結果散々な結末だった。愚かだと思った、哀れだと思った。
 なぜ、使命しか果たさなかったのかと。なぜ使命以外にそこまで執着できるのか。
 それがわからなかった。わからなくてもいいと思った。
 『感情』のあるものは醜く抗い、喚こうとする。その『青年』だった破壊神アルトリア・セイクリッドもそうだった。
 彼女には『感情』というものがなかった。だからその青年の運命に醜く抗おうとする姿を、
 ただ黙視しているに過ぎなかった。
 が、逆に興味を持った。その運命に抗おうとする青年のことを。

 彼は笑えなかった。感情がなく、表情を変える事が出来ないコルネリアと一緒で、心の底から笑うことができなかった。
 笑えなかったと言っても彼女みたく無を貫き通してきたわけではなかった。
 ただ、自分を守るため、人を傷付けないため素の表情が笑顔になっただけだ。
 コルネリアは興味深かった。思ってもいないことを表現できるのかと。裏切られても尚信用しようとするのか。

「いつしか色んな景色を見てみたい」
 彼女にとってはもう遠い記憶の中彼はそう願っていた。
 景色。彼は一個の朽ち果てた景色しか知らなかった。ありもしないない希望を持っていた。
 彼は、それだけで生きようとした。運命に抗ってまで、感情を閉ざしてまで。
 今の地球だと3月だろうか。丁度彼が生まれた頃である。彼の見たかったもののひとつ「桜」が咲いている頃合いだろう。

 それが彼の唯一心の底から自分を表現できる希望、自分にも見えない星だった。
 それだけのために彼は自分の使命とは違う事をしたいと思ったことをした。裏切ら手も尚人を守ろうとした。
 彼みたく、感情を持って、自分を表現してもいいかもしれない。見えない星を持ってもいいかもしれない
 コルネリアはそう思った。だから、自分に『感情』を創った。
 生まれて初めて使命ではない、自分がしたいと思ったことをした。


 今は『春』。本来なら薄いピンクに染まった並木があった事だろう。
 だがコルネリアによる断罪でそれは許されなくなってしまった。
 だがそれに抗うように一本の大きな木が立っていた。その枝には薄いピンクの花を纏わせている。
 これが『桜』という奴だ。
 コルネリアはその木の下に一人佇んでいた。そして初めて感情というものを経験した。
「これが君の見たかったものかい。セシル」
 セシル。それが青年の、コルネリアに自分の感情を創らせた命の名前。
 一見見慣れた景色のように思えたが違った。何故だろうこんなにも心を動かされるのは。
 そしてコルネリアは初めて『自分を表現』した。目から水が流れている。
 顔もなんだか今まで動かしてなかったものを動かすかのように引き継っている。
 そうか、これが感情という奴か。セシルの、味わいたかったものか。

 コルネリアは木に寄り掛かり、白紙の本を出した。今の自分を残しておきたかった。
 そうして彼女は桜の匂い、景色などを今自分が思っていることを書き残した。
 これを誰に伝えよう。散々感情があることを貶してきたアルトリアに言うのは少々重苦しい話だ。
 でもそれは、今まで自分のしてきたことの断罪だろう。コルネリアは、そう思った。神としての自分の断罪。
 コルネリアの感情はまだセシルに比べたら乏しいものだ。それでも、自分も彼みたいに醜く抗おうと。
「笑えなかった君の分まで笑う、ということをしよう。かつての宿敵『セシル・ギルバート』の分まで」
 笑うというものはまだわからなかったが、今自分が自然にしていることだということはわかる。
 もういない、自分にも予測できない世界に行ってしまった、自分の見えない星にそう約束事をした。
 コルネリアは自分にも見えない星を抱き、春風に戦がれながら思い、言う。
「君がいなくても僕がいる」
 セシルの感情もセシルがいた証も全部、自分の中に存在している。
 そう、コルネリアは誰にも見えない想いを持っている。

 そんな、創造神コルネリア・セイクリッドという物語のほんの1ページ。

見えない星の誕生を コルネリア・セイクリッド

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