蒼穹の黙示録

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知らなくてよかったこの想い

 自分は完璧だったはずだった。完璧であるはずだった。
 学業、身体能力、どれを取っても劣るものはなかった。
 でもあの人の笑顔を見てしまってから、私は完璧ではなくなってしまった。
 本当は、本当は好きになるべきじゃなかった。貴方のことを好きになりたくなかった。
 でも、好きになってしまった。貴方の笑顔で。私は完璧ではなくなりました。

 貴方はあの人が好きなのでしょう知っています。貴方のことが好きだから知っています。
 貴方のせいで私は完璧ではなくなってしまったことも知らないくせに上辺だけの笑顔を見せて。
 これ以上私を壊さないでください。この想いが貴方に届かないのなら、貴方があの人を思っているのなら、
 こんな気持ち、知らなくてよかった。知らなくてよかったよこの想い。
 でも知ってしまったからにはもう遅い。想う気持ちは今にも溢れそうで。

 完璧でないのがバレそうで。貴方のせいなのがバレそうで。
 だから私は笑います。貴方への想いを知られたくないから笑います。溢れだしそうな想いを笑顔で誤魔化します。
 それがきっと、貴方と私の、一番の傷つかない方法。

知らなくてよかったこの想い セシル・ギルバート

交わらないふたつの世界

 初めて好きと言ったあの日、お前は既にあいつのところに行ってしまって。
 お前もその日初めて好きって言って。もう遅いのに。お互いに馬鹿みたいだった。
 昔から好きだった、出来れば攫ってどこか2人の世界へ行ってしまいたかった。
 でも無理だった。こんな事も出来ない自分を許してくれるだろうか?

 せめて我が友人に託すよあの人のことを。自分の想いを殺して。
 ふたりの世界は交わらなかった。だからせめてあの人を、どうか幸せにしてくれ。
 荷が重いのはわかってる。でもそうじゃないと友人であるお前も傷つけてしまう。
 既に、大切な想い人を傷つけてしまったから、だから。

 初めて友人だと言ってくれたお前を悪者扱いしたくないんだ。わかってほしい。
 でもこみ上げるこの憎しみはなんだんだろう。おかしいよな。自分でもおかしく思う。
 だから自分は傷つけてしまうんだろうな。自分とあの人と、お前と自分の、交わらないふたつの世界。
 せめて、お前だけでも笑ってくれ、大切な、大切な人。

交わらないふたつの世界 クラウス・ナイツェル

こんな想い知らなかった

 君が笑う。それを見るたびに早くなる僕の鼓動。
 なんなんだろう、今までこんなのはなかったはずなのに。
 君の手が僕に触れると不思議と顔が熱くなる。それを見て君が笑うと更に熱くなる。
「もしかして照れてる?」
 君がそう言う。照れてると言われればそうかもしれない。でもなんだろう。とても苦しい。
 君を見ると苦しいよなんでだろう調べても調べてもわからない。

 原因がわからないから、つい君を避けてしまう。君を見ると苦しくて。
 でも振り返って見た君の顔を見たときはもっと苦しくて。
 どうすればいいのかわからなくて、初めて君の前で泣いた。君はどうしていいかわからずオロオロしていた。
「どうしたの?」
 君が心配そうにそう聞く。そんな顔で言われると、今までやってきたことが申し訳なくて。
 だから素直に君を見た時の胸の鼓動とか全部言ったよ。少し恥ずかしかったけど。

 すると君もなぜか顔を赤くさせた。その時はちょっと愛しく思った。
 逆にこっちから「どうしたの?」って聞くと君は恥ずかしげにこう言った。
「それって、好き、ってこと?」
 それを聞くと僕の顔はまた熱くなった。
 そんな感情知らなかったよ。僕はこんなに苦しくて、でも愛しくて、そんな複雑な想い知らなかったよ。

こんな想い知らなかった コルネリア・セイクリッド

あなたを覚えてしまった

 自分は愚かな人間の名前なんて覚えたことがない。覚える必要がないからだ。
 せいぜい、かつての自分だったセシル・ギルバートくらいだろうか。
 愚かな、醜い人間の名前を覚える必要なんてない。正確には覚えても陳腐で忘れてしまうが正しいのだろうが。

 だが、例外がいた。それは17の少年だ。
「アルトリアさん」
 それは気安くアルトリアの名前を呼ぶ。だが悪い気分ではない。
 最初は自分の快楽目的の殺人をしようと騙して殺すつもりだった。
 その後は綺麗さっぱり忘れる予定だった。

 でも一緒に過ごしていくにつれて、覚えてしまった。名前も。夜空のような髪も、星のような瞳も。全部。
 珍しいこともあるものだとアルトリアは思った。自分が人間のことを覚えるなんて。
 名前、髪、瞳、声。どれも忘れるには惜しいものだ。
 自分の脳内に焼き付けるなんて面白い、とアルトリアは思う。
 だから、褒美くらいくれてやってもいいだろう。

「おい、貴様。少しこちらに来い」
「はい、なんでしょう。アルトリアさん」
 呼ばれるとその少年は素直に駆け寄ってくる。呑気なものだ、とアルトリアは思う。
「今から貴様に褒美をくれてやる。一度しか言わないからよく聞いておけ」

 とアルトリアは言い、その直後少年の名前と、おまけの自分の気持ちも添えて、褒美をやった。
 その少年が頬を染めるよりアルトリアが気恥ずかしさでその場から逃げてしまうのが先なことは、内緒である。

あなたを覚えてしまった アルトリア・セイクリッド



お題//確かに恋だった
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